国際日本学部

SCENE

神奈川大学の風景
October 22, 2020
国際文化交流学科

世界に目を向け、自分自身の答えを見つける

「日本の原子力がメディアでどのように表象されてきたのか」をテーマとして研究に取り組むブルーノ・ティノ先生。フランスの大学を卒業後、日本への留学中に東日本大震災を経験し、日本社会の「パラドックス」を感じた。自身の経験や研究を踏まえた授業では、学生たちに向けて「決まった答えのない社会の中で、自分なりの問いを持ち、答えを見つけ出すこと」の重要性を説き、海外から日本はどのように見られているのかを知り、考察し、自らの答えを見つけてほしいと語る。

「パラドックス」を感じることから始まる

最初に日本の原爆写真に興味を持ったのは、高校生のころでした。蚤の市で被爆者の日記が掲載されたフランスの科学雑誌を手にした時に衝撃を受けたのです。フランスの大学では日本学を専攻し、修士課程から日本の原爆写真についての研究を始め、なかでも従軍カメラマンである山端庸介氏の写真を分析してきました。

そして、2010年に日本へ留学。当初は、「日本の原爆写真が戦後から現在まで、新聞でどのように報道されてきたか」をテーマに研究していたのですが、2011年に東日本大震災を経験したことにより、私の中で「パラドックス」が生じます。それまで「原爆」にしか焦点を当てていませんでしたが、震災による原発事故の報道を目にするなかで、日本は被爆国でありながらも、原子力を持つ国であることに気づかされたのです。

そこで新たに「日本はなぜ、被爆国であり、さらに地震大国でもあるのに、原子力を導入したのか」という疑問が生まれました。私が「日本の原子力がメディアでどのように表象されてきたか」を研究するようになったきっかけは、日本社会にある「パラドックス」を感じたからなのです。

日本が海外からどう見られているかを知る

「なぜ日本は原子力を導入したのか」という問いに答えを出すためには、戦後の日本人の立場になって考える必要がありました。そこで研究材料として、まずは当時一番読まれていた新聞やポピュラーな雑誌、1955年から開催された博覧会やシンポジウムなどの情報や資料を集めました。このような資料からは、エネルギー源としての原子力に世界的に注目が集まり、日本でも平和利用が進められていったという当時の状況が見えてきます。そこで、当時の日本人がどのような情報にアクセスし、自分の選んだ媒体で、どのような判断ができていたのかを、社会的・文化的背景や他国との交流などの視点も交えて分析していったのです。

歴史や時代を遡っていくと、さまざまなことが見えてきます。戦後と現在とでは、浮き彫りとなる問題も変化しています。特に2011年の東日本大震災による原発事故では、英語圏、フランス語圏などの海外メディアや日本メディアの報道にも違いがありました。学生たちには、世界の中の日本を意識し、日本が外からどう見られているかをぜひ、学んでほしいと思います。

「当たり前」だと思うことに疑問を持つ

授業では、原子力の問題に限らず、海外から見た日本社会について話し合います。例えば、「和食」について海外メディアではどのように紹介されているかなど、身近な話題を取り上げて日本の特徴や良さ、他の国との違いを追求していきます。例えば、「カリフォルニアロールという寿司は、本当に日本のものと言えますか?」などの身近な話題から質問を投げかけ、学生とディスカッションをして、文化の違いやグローバル社会の中で、社会がどのように変化しているかを考えます。

そうしたなかで学生たちには、「普段、当たり前だと思っていることに疑問を持ってほしい。そして、そこから新しいアイデアを生み出してほしい」と伝えています。例えばフランス人である私からしてみれば、日々の生活の中で、「日本は料理が話題にされることが多いのに、なぜキッチンは狭いのだろう?」「梅雨の時期が長いのに、洗濯乾燥機があまり普及していないのはなぜだろう?」といった疑問があります。日本の学生たちは、身の回りや社会のことに、どのような疑問や違和感を持っているのでしょうか。自ら問題提起し続けていくために、日頃から好奇心を持って、自分の周りを観察してほしいものです。

私が担当するフランス語の授業の中でも、フランスと日本における社会の違いや、フランス人は日本人をどう見ているかなどの話を織り交ぜながら教えています。言語の違いだけではなく、異なる見方や考え方に触れることで、日本の良さや問題点が見えてきます。こうした学びは、自分の意見を再考するきっかけになると思います。

国際文化交流学科で学ぶ学生たちには、決まった答えのない社会の中で、自分なりの理由や答えを見つけ出すことができる人材に育ってほしいと願っています。「パラドックス」に向き合い、答えを探す過程自体が自分自身の糧になるはずです。

国際文化交流学科
外国人特任助教

ブルーノ ティノ 先生

現代社会学、メディア研究、国際比較研究、文化表象論

掲載内容は、取材当時のものです

国際文化交流学科
についてはこちら ▶
国際文化交流学科
October 31, 2019

「言語は全て同じ」-言語学を学ぶ-

SCENE
国際文化交流学科
November 20, 2019

身近なところから始まる異文化理解

SCENE
歴史民俗学科
November 20, 2019

文学の世界から、文化が交わる場所へ

SCENE