歴史民俗学科の久留島典子先生は、中世に残された文書から、武士や百姓などの暮らしを読み解き、社会が変化する過程を解明している。歴史民俗学とは、過去にさかのぼって学び、それを今の社会とつなげ、さらに未来にどう役立てるかまで、思いを巡らせることができるダイナミックな学問だ。学生たちには、「日本の歴史をきっかけとして、物事を多角的に見る力を養ってほしい」と願い、能動的な学びを促す。
私の専門分野は、歴史学の中でも日本史です。主に、12世紀から16世紀を中心とする中世の時代、いわゆる南北時代、室町時代、戦国時代に村で生活していた一般の人々に着目して研究を続けています。
この時代は、一般的には「戦乱の世」というイメージが強いかもしれませんが、実はさまざまな産業、商業や農業などの技術が発展し、人々の生活が徐々に豊かになっていった時代でもあります。時代の流れが大きく変化する中で、階層が固定化されていくのではなく、逆に庶民の中から成り上がって武士になる者も多く現れました。その結果、今まで威張っていた公家たちが、だんだん武士の勢いに押されていく、という現象が起こります。いわゆる「下剋上」と呼ばれていますが、それは社会がダイナミックに動いた証でもあります。まさに、「時代が動いている、人々が動いている」という点が、この時代を研究する魅力といえるでしょう。
これまでに残された書物や史料は、男性の視点で研究され、語られたものがほとんどでした。そこで私は、まず歴史の中に存在する女性を探すことから始めました。ただ単に、女性のことを調べるわけではありません。まず一般の人々の生活の中で、「その時代の女性は何をしていたのだろう。どのような生活を送り、どのような役割を担っていたのだろう」という問いを立てて調査・分析し、これまで表舞台には現れることがあまりなかった「女性たちの生活」を探っています。
歴史学では、「どのような視点を持って研究するのか」という点が非常に重要になります。なかでも私が注目しているのは、ジェンダー史と呼ばれるものです。男性や女性、あるいはそのどちらでもない性を意識しながら、それぞれの視点を通して歴史を見直していく。それによって、新たな価値観や見方を発見していきます。
おそらく、みなさんが高校までに学んできた歴史とは、教科書に書かれていることを暗記したり、調べたりするなど、どちらかというと「与えられた歴史」だったと思います。しかし、大学では歴史そのものよりも、「歴史学の方法」を学んでいきます。つまり、歴史を自分の視点で、能動的に探っていく、という姿勢が求められます。たとえ有名な人が記した書物や史料だとしても、誰かが打ち出した歴史像をそのまま信じ込むのではなく、「自分はそれをどのように受け止めるのか」「なぜ、自分はそのように考えるのだろう」と常に自分自身に問い直すことが大切です。
大学で「歴史学の方法」を学ぶことは、物事全体を長いスパンで、奥行き深く見る力やその姿勢を身につけることにつながります。それは、社会に出た時にも役立つ力です。
学生のみなさんには、大学での講義や活動をきっかけに、まずは自分なりの疑問や関心ごとを見つけてほしいと思います。そして、必要な史料を読んだり、時には実際に足を運んだりして、自ら行動を起こすことが大切です。
「自分自身の視点」というものは、これまで見聞きした経験や人との出会いによって築かれたものであり、実は複数の考え方や見方が混ざり合って成り立っているものです。大学生活では、さまざまなことを経験、吸収して、さらに自分の中にある視点や見方を豊かにしてほしいと思っています。
そのために必要なことは、共通の関心を持つ仲間を見つけることです。仲間がいれば、一人で研究を続けるよりもずっと楽しいですし、自分以外の意見に耳を傾けることによってさまざまな視点が混ざり合い、新しい世界が広がります。大学生活を送るうえでは、一緒に成長し合える仲間を作ることは重要なポイントではないでしょうか。
また、半歩でも一歩でもいいので、みなさんの方から積極的に教員に近づいてほしいですね。3年生になると、ゼミに参加し、教員と関わることも多くなりますが、特に1、2年生の頃は、学生の方から意識的にアプローチしてほしいと思います。授業でもそれ以外の時間でも構いません。ぜひ、教員にいろいろ質問をしてください。私たち教員にとっても、学生一人一人が「何に疑問を持ち、興味を持っているのか」を聞くことで、お互いを知り、コミュニケーションを深めるきっかけになります。書物、仲間、教員など、大学生活での「新しい出会い」を大切にし、将来に役立ててほしいと思います。
歴史民俗学科
教授
久留島 典子 先生
日本中世史
掲載内容は、取材当時のものです