国際日本学部

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神奈川大学の風景
February 12, 2021
日本文化学科

文学から文化へ〜日本文化学科の学び

日本文化学科の学びとは、単に文学だけを題材として扱うのではなく、文学を中心にそこから派生する演劇やアニメ、音楽、美術などのさまざまな「文化」を扱い、その価値を受け入れ、発信していくことにある。点から面へと広がっていく学びの魅力について、同学科の松本和也先生と水川敬章先生が語り合った。

太宰治の作品から広がる学びの世界

水川:松本先生は、日本の近現代文学を専門とされていますが、なかでも太宰治について研究されていますね。どういった内容の研究なのでしょうか。

松本:太宰は文学史的に評価が高い作家であり、今では教科書に掲載されたり、アニメや映画化されたりするような人気作家ですが、実際に太宰自身が生きていた同時代の人々にどのように作品が読まれていたか、当時の読まれかたに興味があって研究をしています。

水川:なるほど、単に小説を読むというだけではなくて、読まれ方まで研究するというのは興味深いですね。

松本:もちろん小説の中身も読みますが、それだけではなくて、本の表紙やどのような出版社から出版されたのか、本の流通なども研究に関わってきます。最近では太宰の作品がアニメや映画、演劇などになったりしているので、そういったところも研究していきます。そういう意味では、水川先生の研究分野もアニメーションなどを含みますよね。

水川:はい。松本先生と似ていて、私の場合、1960年代以降の日本文学の研究から出発しました。その後、小説の分析方法を応用して現代の日本文化を考えてみようと思い、アニメや映画などの映像作品を分析してきました。最近では、日本のポピュラー音楽についての研究もスタートさせたところです。

松本:文学もやるけれども、広くさまざまな文化、ポップカルチャーまで研究しているということですね。

水川:そうですね。松本先生のもう一つの専門分野には演劇もありますね。

松本:はい。現代演劇についても研究しています。もちろん、舞台を観るだけでも楽しいのですが、戯曲の言葉や演出、身体表現や劇場などについても注目したり、研究できたりすると、より楽しくなるかなと思います。

水川:なるほど。そうすると、我々は、ひとつのものを研究するのではなく、広く日本の「文化」に関わる表現を研究していると言えそうですよね。

松本:そうですね。ひとつのことを研究していくとそこから派生して次につながったりして、それを追っていくとまた広がりがあって。それを追っていくことが楽しくもあり、興味の深まりでもあると思います。

演劇を学問するとは?

水川:私は学問として演劇を学ぶ、という経験をしたことがありませんが、大学で演劇を学問することとはどういうことなのでしょうか。

松本:学問だと考えすぎると堅苦しく、難しくなってしまうので、授業ではたとえばテレビやYouTubeなどの動画を出発点としています。同じセリフでもちょっとしたテンポの変化や、別の俳優さんになると、雰囲気が変わって聞こえたりする、ということがありますよね。また、テレビに出ている俳優さんが出ている舞台の演技を見せたりして、映像表現と舞台表現の違いに気づけるように、注目する点を少しずつ増やしていくような形で授業を進めています。

水川:面白いですね。身近なところから学び始めることができるのですね。

松本:そうですね。ミュージカルを見たことがある、学校行事で演劇の鑑賞教室に行ったことがあるなど、何らかの演劇体験があると思います。そういうところから少しずつ興味を引き出すようにして、学び始めていきます。考えてみれば、こうして私たちが話していることも演劇的な表現ですし、日常の振る舞いも演劇的なものだと言えます。1990年代以降の日本の演劇は、そういった「日常」を演劇にしていく傾向もありましたから、どこから注目しても、身近に感じられるのではないかと思います。

水川:お話を聞いて、演劇を実際に見ながら勉強したいなと思いましたが、それはできますか。

松本:例えば、僕の授業では一つの劇団の作品をまずは教室で観て、いろいろな観点から細かく分析をします。その後、実際に劇場で作品を観るということもします。また、完成された作品だけでなく、稽古場や劇場に出かけて行って、どのように劇場が運営されているのかを見たり、体験したりするプログラムも取り入れています。

水川:演劇を肌で感じながら学べるということですね。

松本:そうですね。あとは授業のゲストに俳優さんをお呼びして、実際に身体を動かしてみるといった体験型学習も用意しています。

水川:どのような劇場に学生のみなさんを連れて行こうと思っていらっしゃいますか。

松本:横浜には大きい劇場もありますし、小さな劇場もたくさんあります。例えば、STスポットでは、小規模ながらも、演劇だけではない、音楽、ダンスなどのいろいろな舞台芸術の表現空間になっていて、そういうところに学生にも関心を持っていてもらえたら、と考えています。

水川:キャンパスからも近くていいですよね。楽しそうですね。

ポップカルチャーも学びの対象になる!?

松本:水川先生は、ポップカルチャーを授業で教えていらっしゃいますが、私たちが学生の頃はそのような授業はありませんでしたよね。どのようなテーマを扱っているんですか。

水川:授業では、大きく分けて2つのテーマを設定しています。ひとつは日本のアニメーションですね。みなさんが日頃から娯楽として見るようなテレビアニメや劇場アニメを扱います。もうひとつは日本のポピュラー音楽です。授業で注目するのは、1970年以降から現在までの歌謡曲、フォークソング、ロック、ポップス、ヒップホップ、アイドルなど様々ですね。

松本:音楽は誰にも身近で、その反面、好きか嫌いかというところで思考が止まりがちです。だとすると、音楽を学問として扱うというのは、どのようなことなのでしょうか。

水川:ポピュラー音楽については、「娯楽や趣味だよね」という捉え方が一般的だと思います。ですから、仰るとおり、どうしても好きか嫌いかということになりがちです。ですが、そこをもう一歩踏み込んで学生と一緒に探求しています。私は音楽学の専門家ではないので、「現代文化や表現文化のひとつとして、日本のポピュラー音楽を捉えてみたらどう理解できるのか」という立場で授業をしています。いくつか例を挙げましょうか。

松本:お願いします。

水川:RYUTist(リューティスト)という新潟のアイドル・グループを、授業ではテーマのひとつにしました。音楽ジャンルの横断性やインターネット・メディアとの関わりなど、RYUTistの作品には表現文化としての論点がいくつもあって、表現として豊かだということを授業で話しました。また、RYUTistは、新潟の街と関わりが深く、地域のコミュニティ・文化という観点から、その活動を理解することもできます。それから、2010年代終わり頃から何かと話題の「シティポップ」と呼ばれるジャンルにも言及しました。こちらは、楽曲や歌詞の表現、ミュージシャンのパフォーマンス、ジャケットデザインなどのビジュアルイメージ、1970年代以降の社会状況やライフ・スタイルとの関係性、海外から見た日本文化という視点、インターネット・メディアとの関わりなど様々な観点からアプローチできます。その意味で文化を学ぶモデルケースになり得ます。また、文学との接点ということでは、シンガーソングライターの柴田聡子さんの作品・活動も見逃せないですね。柴田さんは詩人でもありますから、現代詩という観点から表現活動や作品を解釈することもできるはずです。文学や演劇と同じように、音楽においてもことばの表現や物語や批評性について考えられます。

松本:つまり、音楽から入っていって、そこから派生する物語なりビジュアルなりにもつながっていくという広がりのある学びのイメージですね。

水川:はい、もちろんそういう側面もありますね。例えば、映画やドラマの主題歌になっている楽曲は、音楽単体として聞くのと、映画のエンディングで聞くのとでは、聞かれ方や持たれる印象がかなり違ってきますよね。これは、映画の物語が主題歌と相互作用するかどうかということですね。映画とは別に、主題歌独自のミュージックビデオが作成されることもよくありますが、そうなると、さらに異なった印象が生まれますよね。このように、音楽とその周辺にある様々な表現やメディア、さらには社会・歴史などを一緒に考える、そのような総合的な学びを行なって、文化として音楽を捉えてみようというのが、私の授業の進め方です。

松本:文化という広い世界を、いろいろな入口からつなげながら考えていくということですね。

水川:そのとおりです。

文化の価値を受け入れ、認める感性を養う

松本:私たちは学生時代に文学を学び、今では教員としてそれぞれが専門分野の授業を担当していますが、日本文化学科全体としては、どのような学びを積み重ねていきたいとお考えですか。

水川:日本文化学科であって、日本文学科ではないので、ひとつの専門性を持つだけではなくて、広がりを意識して研究していくということになりますよね。もちろんひとつの専門を持つことも大事だと思います。ただ一方で、日本文化学科という名前が示すのは、「ひとつの専門を持った上で、そこから面としての広がりを目指そう」ということですよね。いろいろなものに興味・関心を持って、自分たちの文化と接する感情や感性までを広く養っていくのだと考えることができるのではないでしょうか。

松本:振り返ってみれば、「文化」とは、それぞれが単体であるわけではなくて、いろいろなものがつながって成り立っています。たとえば、音楽はCDジャケットのように絵と結びついたり、ドラマや映画の主題歌にもなったりするわけですから、そのような「つながり」や「広がり」というごく自然な形をそのまま、学問として学んでいくということだと言えますね。

水川:はい、そういう意味では社会や歴史とのつながりも意識できると思います。松本先生がおっしゃったように、演劇も劇場の運営の仕方という観点で見たら、社会との関わりが見えてきます。日本の文化と社会、そこから広がっていく国際社会への文化の発信という展開。これを一緒に学んでいけるような学科だと思います。

松本:新しいものや自分が知らなかったものに触れる時は、どのように反応したらよいのかが分からず難しく感じるかもしれません。しかし、日本文化学科での学びを通じて、いろいろな文化に触れ、たとえ自分がそれを良いとは感じなくても、その価値を認められるような感性を養ってほしいと思います。私たちもそういった、学生の興味を刺激し、感性を養っていくことができるような授業をしていきたいものですね。

水川:私もそう思いますね。「食わず嫌い」はもったいないので、これまでに触れたことがない、出会ったことがない文化・表現に触れてもらいたいですね。ポップスに興味がない人や演劇を見たことがない人が、それらの文化としての複雑な面白さに気づいて、世界が広がる。そして、その気づきが、学生のみなさんの研究テーマになる。大学での学びには、思ってもみなかった新しい発見と、そのことで変化していく自分を実感できるが日々あるはずです。こういうことこそ、日本文化学科の学びの魅力なのだと思います。

日本文化学科
教授

松本 和也 先生

日本近現代文学
日本現代演劇

日本文化学科
准教授

水川 敬章 先生

日本近現代文学
日本近現代文化

掲載内容は、取材当時のものです

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