国際日本学部

SCENE

神奈川大学の風景
November 17, 2020
国際文化交流学科

メディアから見える「社会」を読み解き、「伝える力」を

今、社会で何が起こり、私たちには何が求められているのか。メディアの現状を知り、自分の考えがどうしたら相手に伝わるのか。江川先生はジャーナリストとして、今なお取材活動を通じて社会への発信を続けながら、大学では取材現場で見聞きした経験を伝え、学生たちの声に耳を傾け、「社会と大学をつなぐ橋渡しの役割」を担いたいと考える。誰でも気軽に情報発信ができるようになった現代社会だからこそ、「伝える力」の大切さを説き、物事を複眼的に捉え、事実を見極め、自らの考えを発信できる力を持ち、しっかりと「対話」のできる人を育てていく。

複眼的に情報を収集し、事実を見極める

SNSなどの発展により、誰でも情報発信をすることができる時代となりました。最近では、第一報が必ずしもマスメディアから発信されたものではなく、一般の人がTwitterで発信した情報だった、ということがよく起こります。その一方で、事実とは異なる情報が拡散され、それがあたかも事実であるかのように伝わっていくことも多くあります。私の授業では、ジャーナリズムの考え方や、メディアを通してどのように情報を取り入れて、いかに活用していくのかということを、学生たちとの対話を大切にしながら考えていきます。

世の中で起きていることをバランスよく知るには、一つの情報源だけに頼らず、複数の媒体で確認することが大切です。さらに、情報を「受信」することだけではなく、どうしたら自分の考えを誤解なく伝えることができるのか、という「発信」についても理解する必要があります。ジャーナリストは「書いて伝える」ことが仕事ですが、大切なのは「どのように書いたら、読み手に正しく伝わるのか」ということです。情報の発信が容易にできる時代だからこそ、「自分の考えを正しく相手に伝える文章を書ける力」を磨いていくことも、私が大学で教えることの意義であると考えています。

双方向のコミュニケーションで対話力を磨く

私は現役のジャーナリストでもあり、いわゆる「二足のわらじ」を履き続けています。大学の外で取材をしていろいろなものを見聞きして、それを大学に持ち帰って学生に伝えていき、若い人たちがどのように感じるのかを知って、今度は私自身のジャーナリスト活動に生かしていくという「循環」ができたらと思っています。ジャーナリストは原稿を書き、それを雑誌や新聞などのさまざまなメディアによって、間接的に情報を伝えていますが、授業では直接的に学生に伝えることができます。同じ空間にいて、同じことを一緒に考えるといった関係性は、取材では築けない特別な関係です。そうした双方向のコミュニケーションができることは、私にとっても刺激的な経験です。学生たちのレポートを見ると、理解の程度を評価できるだけでなく、私が教えたことがどう伝わったのかということも分かるので、こちらのコミュニケーション力も鍛えられています。

みなさんはこれまで、教科書に書かれていることを先生から習うという学び方をしてきたと思います。しかし、大学ではその先の学びが重要です。自分が何か意見を発言し、それに対して他の人が異なる意見を述べ、そこから議論や対話を深めていくという学び方をするのです。最近では、議論というと、何か一つのことに対して、一方が他方を論破するような「分断」が進んでいます。特にインターネット上にはそうした状況があふれています。しかし、議論をするということは、そのような対決を生むことではありません。他者と意見を交わし、対話をすることで、より良い考えが浮かんだり、状況を改善できたりするものです。

授業では、例えば今週のニュースで印象に残ったことをテーマに学生同士で話し合い、積極的に対話をする場面を作っています。対話をすることにより、物事に対する見方や考え方を深め、複眼的に捉えることができるようになります。また、相手に分かるように自分の考えを伝える力や、相手の考えを受け入れる力が身につきます。学生たちには、そうした経験をたくさん積んで、相手を論破してねじ伏せるような力ではなく、相手との対話や対論によって新しい考えを生み出していける人になってほしいと考えています。

ジャーナリズムを通して、「自分らしく生きる道」を見つける

全学部対象の一般教養の授業では、私が長年取材をしてきた「カルト問題」について取り上げています。授業では、オウム真理教の問題をはじめ、さまざまな事件を題材に扱いますが、過去の事件をただ振り返るのではなく、集団が人間の心理を利用して、どのように人々の心を絡めとっていくのか、あるいは、どのようなプロセスによって被害者の立場から加害者になっていくのか。さらに、これから身近に起こりうる問題に対してどのように備えていくのかということを講義しています。そうして学びながら、「自分らしく生きていくためには何が必要なのか」ということを考えてもらうということが授業の目的です。

自分らしく生きていくために、夢を持つことは素晴らしいことです。しかし一方で、夢がなければ幸せな人生が送れない、ということではないと私は思います。実は私も、初めからジャーナリストを目指したわけではありませんでした。学生の頃は自分が何をしたいのかが分からず、新聞記者になったら、社会のいろいろな側面を見ることができて、自分が進みたい道が見えてくるかもしれない、といった漠然とした気持ちからのスタートでした。そして、仕事をするなかで、オウム真理教事件などのいろいろなことが積み重なって、今の自分があります。私のように、自分で道を決めるのではなくて、「自然と道ができた」ということもあると思うのです。

いろいろな生き方があっていい。夢がかなわないことがあってもいい。失敗しても、そこで人生を転換することができるのです。ジャーナリズムの考え方を学び、スキルアップをして選択肢を広げ、いろいろな生き方の中から「自分らしく幸せに生きられる道」を見つけてほしいと願っています。

国際文化交流学科
特任教授

江川 紹子 先生

メディア・ジャーナリズム論
カルト研究

掲載内容は、取材当時のものです

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