国際日本学部

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神奈川大学の風景
March 4, 2021
歴史民俗学科

比較民俗学でひも解く 東アジアの中の日本

歴史民俗学科では、国際日本学部の理念である「世界を知る」をベースに、世界と日本の双方の過去を読み解き、現在につながるプロセスを民俗学の観点から学びを深める。「日本の民俗を知ることは、東アジアにおける中国や韓国の民俗との比較研究をすることである」と周先生は話す。東アジアの近隣国の民俗を学ぶこと、それは日本という自国の民俗を再認識し、新たな発見へと導いていく。

隣国を知ることで、日本を知る

「民俗学」とは、信仰伝承や儀礼伝承などの風習をはじめとした、自国民の日常や民俗を対象とする学問とされてきました。歴史民俗学科では、当然ながら日本の民俗について学んでいきますが、私たちが自分自身の背中を見ることができないのと同じように、日本という国の全体像を知るためには、より多角的な視点が必要とされます。

日本の民俗は東アジアの近隣国と深い関係性があり、風習などでも類似性が多く見られます。言い換えれば、中国や韓国など隣国の民俗文化は、日本を映し出すいわば「鏡」のような存在であり、東アジアの国々の民俗文化を知ることで、日本に対する理解も深めることができるのです。

つまり、「日本の民俗を学ぶ」ということは、東アジアの隣国の民俗を学んでいくことであり、それぞれの異なるところや同じところを含めて、相互の関係性を明らかにしながら、民俗文化を比較研究していくことなのです。

比較民俗学で見る「東アジアの端午」

東アジアという枠組みから、伝統的な年中行事である「端午」を例に取り上げてみましょう。日本では5月5日の「端午の節句」に、男の子の健やかな成長を祈願して、五月人形や鯉のぼりを飾ったり、ご馳走を食べたりして祝います。この風習にどのような意味があるか考えたことがあるでしょうか。実は、中国には「端午節」、韓国でも「端午祭」と呼ばれる同様の風習があるのです。一国民俗学的な視点で見ると、日本、中国、韓国それぞれに端午の風習がありますが、その特徴だけを見ていては、「東アジアの端午」を取り巻く全体像を見ることはできません。そこで必要になるのが、比較民俗学の視点です。

かつて、暦を共有していた東アジアでは、千年以上にわたり、時間制度、天候観念、季節感を共有し、一つの文明圏として成立していました。端午に関していえば、「悪月」や天候の変わり目の解釈はほぼ一緒でした。特に、旧暦5月の端午の時には、邪気や病気が氾濫しやすく、「忌み月」とされてきました。数多くある端午儀礼とは、それらに対処するための「薬気(薬物)」を生み出し、邪気払いすることを目的としているのです。

中国では、強い香気と薬性のある菖蒲は、古来より健康を保ち、邪気を払うと信じられています。中国における端午は、薬草を採る日、薬を作る日とされています。日本では、端午の節句には、風呂に菖蒲を入れた「菖蒲湯」に入ります。韓国では、女性と子供は菖蒲を入れて煎じたお湯で頭髪を洗います。

李朝・申潤福:『蕙園傳神帖』(けいえんでんしんちょう)の「端午風情」/ 韓国の国宝第135号。

また、中国で端午節の時に身に付ける「匂い袋・香り袋」は、中国では魔除けや病気除けの意味合いがあり、日本にも「薬玉(くすだま)」と呼ばれる似たものがあります。端午の節句を描いた江戸時代後期の浮世絵には、薬玉や金太郎の五月人形、兜飾り、魔除けの神様と言われる「鍾馗(しょうき)様」を描いた鯉のぼりなどが見られます。日本においても、「端午の節句」という一連の行事は、邪気払いをする薬物を生み出すための風習であることが分かります。

溪斎英泉:「十二ケ月の内 五月 くす玉」
くす玉:麝香や沈香などの香料を錦の袋に入れ,造花や糸で飾り、菖蒲や蓬(よもぎ)を結びつけ、五色の糸を長くたらしたもの。不浄を避け、邪気を払うために飾られました。
「古代薬玉之図」:『生花早満奈飛』天保6年

比較研究を通して、東アジアの民俗文化を学ぶ

このように、それぞれの国の端午の文化を通して、「東アジアの端午」、あるいは越境する「端午」、共有する「端午」という観点で見ると、「東アジアの端午」という文化の全体像が見えてきます。比較研究を通して、端午の特徴が東アジアの民俗で共有されていることから、端午の文化を再認識することができるのです。つまり、中国や韓国の端午を知ることによって、私たちは日本の端午の節句に関する理解をより深めていくことができるのです。これが、比較民俗学の視点です。

このように、一国民俗学を乗り越えて、比較民俗学の視点から、「東アジアの民俗」という枠組みで考えることで、私たちは新たな発見をすることが期待できます。民俗学者は自国の民俗文化だけでなく、隣国の民俗文化を尊重していくべきであると考えます。ぜひみなさんも、私と一緒に「東アジア民俗学」を目指し、比較研究を通して隣国を知り、そして日本という自国の民俗を見つめ直す感性や能力を養ってほしいと願っています。

歴史民俗学科
教授

周 星 先生

東アジア民俗学

掲載内容は、取材当時のものです

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