国際日本学部

SCENE

神奈川大学の風景
November, 6 2020
国際文化交流学科

デザインの歴史でたどる「モノ」と「人」の関わり

「デザイン史の研究とは、人の研究であり、人がどう生きようとしたかという歴史を調べていくことである」と角山朋子先生は話す。身の回りにある「もの」の中から、自分は何を選んで、どのような生活空間を作りたいのか―それは自分の生き方の選択にもつながる。美術を通して、その「もの」の形や表現が、どのような時代背景をもとで生まれてきたのかを学び、今の生活とつながる問題を見出していく。

「もの」を多角的にとらえることで、世界が広がる

私の専門分野は、20世紀初頭のオーストリアと中欧のデザイン史です。高校生の頃、英文学と美術史を学びたいと思い、ヨーロッパやアメリカの文化を専攻できる大学に入学しました。大学2年生のときに、19世紀後半にイギリスの詩人、思想家、デザイナーであるウィリアム・モリスが起こした「アーツ・アンド・クラフツ運動」を知りました。ウィリアム・モリスは、産業革命による大量生産がもたらした安価で粗悪な商品があふれかえる状況を批判し、「生活の品を美しく、良い環境で良いものを作って、人々の生活を美しく」という思想を掲げて活動しました。この運動を知り、「もの」が目に見える物品だけでなく、私たちのライフスタイルを築くことにもつながり、そして生き方にも関わっていくことに、大きな刺激を受けました。さらに調べていくと、イギリスのこの運動がオーストリアのウィーンに渡って、そこで一つの運動が新しく展開したという事実と出会いました。第二外国語でドイツ語を選択していたこともあり、「デザイン史」という領域やドイツ語を使う地域の文化を研究したいとの意欲が高まり、こうした研究の道へ進んだのです。

そして、大学4年生のときに、現地で学ぶために1年間ウイーンへ交換留学をしました。留学中は「ウイーン工房」という工芸品会社について研究を深め、またウイーンだけではなく、同じヨーロッパ地域でどのようなものが作られていたのかなど、広く作品や資料を見ることができました。

オーストリアの芸術デザインを学ぶとき、オーストリアのことだけを研究していては、一部分しか見ることができません。留学を通して、物事の背景を深く、そして広く見ようとするようになり、一つの観点からだけでなく、複眼的に見ることを意識するようになりました。

デザインの歴史的背景を知り、今につながる学びを

私が研究しているデザイン史が扱う題材は、美術館にあるものだけなく、日用品やポスター、映像など身近なものです。それらの形や色など装飾のことだけではなく、その表現がどのような時代背景のもとで生まれてきたのか、またどのような政治的もしくは経済的影響を受けて変化していったのか、あるいは作家たちがどう変化させようとしたのかということを研究します。社会の歴史も大きく関わってくる領域です。

私が教えている「文化交流論」では、19世紀の末から1960年代頃のヨーロッパを中心としたデザイン史を学びます。講義では、美術・デザインの歴史を時系列で教えるのではなく、表現が生まれてきた歴史、社会的・文化的背景についても話しています。学生たちに伝えたいことは、今とつながる問題を見出してほしいということ。つまり、歴史を学んでいるなかでも、常に自分に引き付けて考え、想像し、「主体的に学ぶ」ということを意識してほしいと思います。国際文化交流学科では特に、「国際」と「文化交流」を主軸としていますので、人と人がコミュニケーションを取るとはどういうことなのか、地域や国を越えて意思疎通をし合って、そこから何がどのように生まれてくるのかーこうしたことをじっくりと学んでいけるはずです。なかでも、「文化交流コース」では、欧米、中東、アジアなどの地域のことば、表現、歴史の研究をしたり、実際にいろいろな施設を訪れたりして視野を広げていきます。「文化」という、一言では説明できないものについて、先生や仲間とさまざまな角度から共に掘り下げ、考えていくことが、大学で文化を専攻することの醍醐味であると思います。

デザイン史の研究は、「生き方」を考えていくこと

「デザイン史を研究する」ということは、「どう生きていくか」を考えることであり、哲学的な側面もあると思います。あるデザイン史家は、「ものを選ぶことは、生き方を選ぶことだ」と言います。今、私たちの身の回りにあるものは、全てが「デザインされたもの」です。そうした中から、ぱっと見た印象や価格で選ぶのもいいですが、それが何を考えて作られたのか、どのような素材を使い、どういった環境で作られているのか、などということまで考えていくと、いくつもの選択の要素があります。「ものを選ぶ」ということは、自分の中のさまざまな価値観が問われることだと気づきます。

大学では多くの出会いの場があります。学問との出会いはもちろんのこと、同じ志をもつ仲間がたくさんいて、人の繋がりに高校よりもずっと広がりがあります。また、一見自分に関係のないような授業であっても、どこか心に響くものがあれば、それが化学反応的に広がっていきますので、自分の世界を自由に豊かに広げながら、大学生活を送ってほしいと思います。

国際文化交流学科
准教授

角山 朋子 先生

オーストリア・中欧デザイン史
芸術思想

掲載内容は、取材当時のものです

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