国際日本学部

SCENE

神奈川大学の風景
October 22, 2020
国際文化交流学科

平和を創り出す観光を実現

「 “Peace Lover”ではなく“Peace Maker”となる人材を育てたい」。観光を通して平和を積極的に実現することを目指す島川先生は、「人文学」を軸として、人間とは何か、文化の素晴らしさとは何かを考えながら、観光の本質を見極める力を育んでいる。観光客、地域住民、観光事業者の三方が幸せになる観光を生み出すためにすべきことは何なのか。「観光は平和へのパスポート」という言葉の意味を深く考えていく。

「人文学」を学び観光の本質を探る

観光の語源は『易経』の「国の光を観る」にあります。観光とは、「行くこと」と「迎えること」の両方を意味する言葉です。国際文化交流学科では、世界に日本の良さを伝えることを主眼としながら、私たちが他の国へ行った時にも、表面的なことだけではなく、文化や歴史などを理解できるような学びを目指しています。

そこでキーワードとなるのが、「人文学」です。これまでの観光学は、経営学など社会科学の視点で研究が進められてきましたが、国際文化交流学科では、人文学を軸として、「人間の可能性とは何か」「文化の素晴らしさとは何か」という視点で観光について考えます。

その特徴的な授業の一つである「人文観光資源論」では、歴史や美術などの人文学的要素を持った人文観光資源に着目し、その素晴らしさを伝えています。2020年度は、新型コロナウイルスの影響で遠隔授業を行ってきましたが、そのなかで、人文観光資源の宝庫であるイタリアのツアーオペレーターとつなぎ、ローマやフィレンツェの様子を聞いたり、実際にどのようにガイドが行われているかを体験したりしました。

コロナ禍ならではのオンライン授業を生かしたこの授業は、学生たちにとって、普段は見ることのできない裏方の仕事を知ることができ、貴重な学びになりました。また、協力してくれたイタリアの旅行会社の方々も、観光について学ぶ日本の学生と意見交換ができたことを大変喜んでいました。「光」の部分だけではなくその裏にある「影」の部分にもスポットライトを当てて伝えることが私の役割だと実感しています。

「観光は平和へのパスポート」の意味を考える

観光を学ぼうとするみなさんは今後、一度は「観光は平和へのパスポート」という言葉に出会う場面があることでしょう。これは、観光業界でよく言われる言葉であり、私自身もその言葉に突き動かされ、大事にしていきたいと思う言葉の一つです。ただその意味について私は、「観光は平和でなければ成り立たない産業である」。だから「平和でいましょう」という“Peace Lover”にはとどめておきたくないと考えます。平和な状態だから観光ができるのではなく、観光を通して平和を積極的に実現していきたいのです。

その背景には、大学時代に恩師から「行動しているか?」「行動せよ!」と言われ続けたことが今でも心に深く刻み込まれていることがあります。そして今度は、私が学生たちにその言葉を伝え、観光を通じて“Peace Maker”となりうる人材を育てていきたいと考えて、教壇に立っています。

実際に、世界では観光を通して平和を創り出すムーブメントが起きています。例えば、自然資源が豊富なコスタリカでは、ウミガメの卵を密漁して裏取引されたお金がマフィアの収入源になることが問題になっていました。しかし、ウミガメの産卵を観光資源にすることで、観光客が地域にお金を落とす仕組みをつくった結果、反社会勢力を排除することにつながったのです。これぞまさに、観光が創り出した平和であると言えるのではないでしょうか。

相手の立場に立って考えられる人になる

「観光は、三方一両得でなければならない」。私がいつも授業で学生に伝えている言葉です。三方とは、「観光客」「地域住民」「観光事業者」を意味します。このなかでは特に、地域住民の存在がないがしろにされる場合があります。多くの観光客が訪れることで、地域住民の平穏な生活が乱されたり、環境が破壊されたりするなどの問題が起こっているのです。私は、地域住民が幸せにならない観光であれば、振興する意味はないと思っています。観光に携わろうとするのであれば、ぜひ三方一両得の視点を持って、相手の立場に立って物事を考えられる人であってほしいものです。

そのためにも、“For others, Beprofessional.”という言葉を学生たちには伝えています。自分がしようとしていることは他人のためになっているのか。そして、自分自身がプロフェッショナルとして自立しているのか、という2つの視点が一体になっていることが重要なのです。

相手の立場に立って考えるには、国語や古典の中に出てくる物語を学ぶことが役立つと思います。主人公がどのように考えたのか、自分の考え方とはどう違うのか。一旦、「私は」という主語を脇に置いて、私ではない誰かの立場に立って考えるよい訓練になるはずです。ぜひ、いろいろな作品や文献に出会い、時間や空間を越えて、想像力を鍛えていきましょう。

観光や旅の醍醐味は、「新しい文化との出会い」や「人との交流」にあります。将来、観光の道を目指す学生たちには、人から「出会ってみたい」「出会えてよかった」と思われるような深みのある人間に育ってほしいと願っています。

国際文化交流学科
教授

島川 崇 先生

観光学

掲載内容は、取材当時のものです

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