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神奈川大学の風景
November 27, 2019
歴史民俗学科

「疑う視点」を持ち、発信する力に

街のいたるところに存在する造形作品。多様化する美術の世界で、「なぜそこにあるのか」という存在理由を考えて、常に「疑う」姿勢を持ってほしいと木下直之先生は語る。そして何より大切なのが、「自分の考えを作り上げ、伝えること」。木下先生は、美術館や博物館で長年培った経験を通じて、学生たちと一緒に「疑問から広がる世界」を多様な視点から考えていく。

多様化する美術の世界

街を歩いているとモニュメントやオブジェなどの造形作品を目にすることがあります。でも、そこにあることを意識せず、多くの人は通りすぎていきます。ふと足を止め、「なぜそこにあるのか」と意識して見ると、物の見え方は変わってくるものです。私は学生たちと、そのような「問いを見つけ、考える」学びを大切にしていきたいと考えています。

これまで美術館は、地域の文化の拠点として大きな役割を担ってきました。私たちは美術館の中でしか美術作品と出会うことができず、美術館に収蔵されている作品にこそ、価値が与えられていたからです。しかし、本当に美術館の中にある作品だけが美術なのでしょうか。

私は幼い頃から絵が好きで、大学ではヨーロッパの美術史を専攻し、兵庫県の美術館に学芸員として就職しました。そして、さまざまな企画展などを開催していくなかで、社会の成り立ちのなかで美術がどのように位置づけられてきたのかを考えるようになりました。美術館や博物館の仕事を経て大学で教えるようになった私は、2年半前に再び美術の世界へ戻ってきました。美術から離れていたこの20年の間に、日本の美術をめぐる環境は大きく変化しました。

今、私たちの身の回りには、多様な美術が存在します。美術館の外にも彫刻やモニュメントが置かれ、インターネットを通じて多様な表現が発信されています。また、アートプロジェクトやアートフェスティバルも開かれ、地域活性化のなかで、美術はその土地の人々の暮らしとつながっています。美術が多様化しているのです。

時間軸と空間軸の2つの軸を持って考える

美術館の外にあるものに、私は魅力を感じ、国内外のさまざまな造形表現を探し歩いてきました。例えば、寺社などで奉納された絵馬を掲げておく「絵馬堂」はその一例です。皆さんは「絵馬」と聞くと、合格祈願の際に奉納する小さな木の板を思い浮かべると思いますが、もともと絵馬とは、神様に神馬として生きた馬を献上する古来の風習を起源とし、平安時代頃から木の板に描いた絵馬を奉納するようになったとされています。絵馬堂は屋根と柱だけで造られた壁のない建物であり、奉納した絵馬も雨ざらしになっているのです。当然ながら、描かれた絵は次第に色あせ、消えていきます。何が描いてあるのかまったく分からない状態のままで、今でも掲げられていることもあるのです。これこそ、美術館の対局にあるものだと思いませんか。

美術館では壁の内側に絵が飾られ、作品が傷まないように温度や湿度などがコントロールされています。収蔵作品を後世へ伝える目的があるからです。しかし、絵馬堂はそれを目的とはしていません。あくまでも神仏への祈願や成就したときのお礼に奉納するためのものであり、そのような文化が日本では長い間、当たり前に成立してきたのです。そのような「風化していく文化」に目を向けていきたいと、私は考えています。

歴史民俗学科で学ぶということは、「歴史」という時間軸と「民俗」という空間軸の2つの軸を持って、社会を見つめてほしいと思います。そのなかで、「当たり前を疑ってみること」と、「なぜそれがそこに存在するのか」を常に意識して考えてほしいと考えます。研究の対象は何でも構いません。大学で過ごす4年間は、自ら見つけた問いを掘り下げ、考え、その面白さを人に伝えていく力を磨いていってください。

徹底的に疑って考え、人に伝え、社会を変える力を

現代社会はインターネットへの依存も大きく、昔とは比べ物にならないほどの情報量が目に飛び込んできます。しかし、皆さんが手に入れている情報は「編集」されたものばかりです。「生の情報」は自分の足で歩いて、目で見て発見するものなのです。そのためには「徹底的に疑ってみる」姿勢を持って物事を考えてみましょう。

例えば、動物園はなぜあるのでしょうか。よく考えたら奇妙だと思いませんか。本来なら別の場所に生きる動物たちが一つの空間に集められ、私たちはその動物たちを順番に見ていくのです。ある種、博物館と同様で、実物を見せる意味はもちろんあります。では、なぜこのような場が日本の社会につくられたのか。それを追いかけていくと、今まで知らなかった動物園が抱える問題や、動物園を通じた社会の仕組みや歴史などが見えてきます。

絶え間なく動き続ける社会において、私たちは今、その流れからとどまり、歩みを止めることがあまりないかもしれません。だからこそ、美術館や博物館などを訪ね、自分の今の暮らしと距離を置いた空間で、作品や展示物と向き合い、一対一の関係を築き、「これは何か」と考えてみる。そのような非日常の空間で得がたい体験ができる。それこそが美術館や博物館の存在意義といえるのではないでしょうか。

文化を学び、社会における価値を見いだし、多角的な視点で物事を見つめ、考える。大切なのは、自分の考えを人に「伝える」ということです。大学とはそのための訓練期間であるとも言えます。そして、そのなかで培った表現力や価値観を生かして、社会を変えていく力を身につける。大学ではそのような学びを経験してほしいと願っています。

歴史民俗学科
特任教授

木下 直之 先生

文化資源学
静岡県立美術館館長

掲載内容は、取材当時のものです

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