神奈川大学 国際日本学部
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November 27, 2019
日本文化学科

日本人の思想に触れ、生きるとは何かを考える

「日本思想史」は、日本人の過去の思想や宗教をふり返り、それらがどのように現在の考え方や生き方に影響を与えてきたのかを考える学問だ。上原雅文先生は、映画や漫画など身近なものを題材にしながら、現代まで受け継がれている倫理観・自然観・死生観などについて学生たちに教え、思想の変遷について考えさせている。学生たちは、過去の日本人の思想について理解を深めるなかで、現在の日本文化や自分自身の生き方について考えを深めている。

身近に実感できることから始まる日本思想史

私の専門は「倫理学」と「日本倫理思想史」(「日本思想史」)です。授業では、神道や仏教などの日本の宗教や、武士道や儒学なども講義しています。また、外来思想を日本人がどのように受容してきたのかについても講義しています。

思想というと「難しい」という印象を抱きがちですが、そもそも思想とは人間が生きていく上で必要な知恵や考え方であって、身近に感じられ理解できるものなのです。現代を生きる我々自身がどのように生きていて、そしてどう生きるべきなのか、それを自覚的に考えるために、過去の日本人の思想をふり返っているわけですね。そんな意図から、講義では、身近に実感できるような話を織り交ぜています。

たとえば、日本の神道を説明する導入として、神の観念を説明する際に、「昔、川や山には神がいると信じられていました。例えばジブリ映画では『もののけ姫』のシシ神が山の神だね。『千と千尋の神隠し』では、ハクが川の神だね。」と話したり、映画の中で描かれている聖地のシーンと、神社がある聖地(パワースポット)の写真とを一緒に見せて類似点を説明したりします。そうすると、古代の日本人が信仰していた神や聖なる場所について、実感的に理解できるわけです。日本人は古代の神信仰を自然に対する感じ方として残し続けているといっていいと思います。それがアニメや漫画などに表現されているのですね。

学生たちの中には、聖地の写真を見るだけでどこか懐かしさを感じ、神聖で厳かな気持ちになるという感想を述べる学生もいます。古代から受け継がれてきた“何か”が実感されたのかも知れません。しかし、そこにとどまるのではなく、何となく感じられたことについて、文献を通じて自覚的に、時には批判的に考察していくこと、そこに学問としての日本思想史があるのです。

学生主体の活発なゼミと個別研究

ゼミでは、学生が興味を抱けるような文献を読んでいます。例えば、室町時代に成立した「浦島太郎」。元々は、白髪のおじいちゃんになった浦島は鶴に生まれ変わり、本体が亀であった乙姫は亀の姿となって鶴の浦島と再会し、長く暮らした後、最後に2柱の神になるというハッピーエンドの恋の物語なんですね。学生は驚き、興味を抱きます。そして、その物語について様々な角度から考察し、どうして現在の「浦島太郎」の物語になったのかについても考察するのです。その他、『古事記』の神話、武士道について書かれてある『葉隠』『武家義理物語』、近松門左衛門の「曽根崎心中」など様々な文献を読んでいますが、学生の希望があれば、それを取り上げます。

学生たちには、言葉や時代的背景を調べるだけでなく、主にその作品に描かれている人間の生き方や考えを読み取るように指導しています。「曽根崎心中」であれば、登場人物たちが「恋」や「死」をどう考えていたのかを読み取っていく。そしてなぜ作者が「未来成仏疑ひなき恋の手本」と表現したのかについても読み取っていく。学生たちが意見を出し合って議論し、当時の人々の考えを理解し、それと比較しながら現在の日本文化や自分自身について考えることができる、そんな“学生主体のゼミ”を目指しています。

文献を共同で研究していくことと並行して、学生は自分の興味あるテーマを見つけ、個別研究を進めます。題材やテーマは自由です。今まで、古典を題材にした、恋、愛、義理などの生き方に関わるテーマや、神話、神、仏、霊魂、妖怪、鬼などの宗教的なテーマなどがありました。武士道を研究する学生は毎年のようにいます。現代小説や漫画・アニメを題材にした学生もいますね。『もののけ姫』とか。いずれにせよ、年度末には研究の成果を論文の形で提出します。4年生の場合は、それが卒業論文になります。

私はよく学生に、好きなアニメや漫画について聞きます。学生たちはそれらを楽しんでいるだけで気づいていないのですが、私から見ると、作品の中に日本的な神観念や仏教の霊魂観などが反映していることが分かったりします。戦闘もののほとんどに武士道の倫理が見られます。それらを学生に伝えると、学生の漫画の読み方が変わってきて、より楽しめるようになる。そして、それに関係するような古典に興味を持ったり、漫画やアニメを研究の題材にしたりするのです。私も純粋に漫画やアニメが好きなので、紹介してもらったものを見たり読んだりして、よく学生と議論しています。

学生の個別研究の題材やテーマは様々で、時代や文献の種類もばらばらです。ある学生が研究している文献を他の学生が知らないこともよくあります。しかし、発表を聞くとみんな面白がって議論が出来る。それは、日本思想史の扱う共通のテーマが「日本文化や日本人の生き方がどのように形成されたのか」というところにあるからだと思います。みんなそのことに関心を持って考えようとしている。そのため、お互いに異なる時代の文献を研究している学生同士でも、活発に議論できるのですね。

「国際日本学部」の中にある「日本文化学科」での様々な学び

新設される日本文化学科では、日本文化に興味を持っている学生が多くなるでしょうから、今から楽しみにしています。しかし、「日本」にだけこだわって研究していても、日本のことは見えてきません。あくまでも、自分が感じている「日本」を、一歩引いて外側から客観的に見て、言葉で説明して、外国の文化と比較していくということをしなければ、本当の意味で日本を理解したことにはなりません。

例えば、「キリスト教の神」と「日本の神」とは全く異なるものなのですが、その違いを理解してはじめて「日本の神」を理解したことになる、ということです。そのような意味でも、世界の文化・思想についても幅広く学べる「国際日本学部」の中に「日本文化学科」があることの意義は大きいでしょう。

私の専門は倫理学・日本倫理思想史ですから、ゼミや講義で日本思想史を扱っても、倫理学の観点からの思想史になります。高校での科目「倫理」の内容と重なりますが、その授業に興味を持てなかったとしても、大学で私の講義を聞くと、恋や死、武士道など、高校の「倫理」では扱うことのなかった人間の生々しい生き方に触れることができ、全くイメージが変わってくるはずです。

倫理学にしても日本思想史にしても、就職に直接的につながる学問ではありません。しかし、ゼミでの学びを通して、倫理学の視点をもって議論する訓練をしたことが、就職活動での面接の受け答えなどに役だったと卒業生は語っています。卒業論文について聞かれたときにも、しっかりと説明する力がついていることと思います。

在学中は日本文化を中心として世界の文化を幅広く学び、ゼミでは自分の興味ある研究テーマを見つけ、問いを自ら設定し、研究を深めていく。そして、そのテーマについて、学生同士や教員と議論して、学びをさらに深め、研究の成果を論文にまとめていく。そうした学びの過程で身についた知識や能力は、社会に出てどんな職業に就いたとしても、そこで必ず役立っていくものなのです。

日本文化学科
教授

上原 雅文 先生

倫理学・日本倫理思想史

掲載内容は、取材当時のものです

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